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刀根里衣氏からマレーク・ベロニカ氏宛ての手紙 その1

 

マレーク・ヴェロニカ様

 

初めてお手紙を差し上げます。

 絵本作家の刀根里衣と申します。今回、国際交流基金ブダペスト日本文化センター様より、世界中から愛されている絵本作家の大先輩のマレーク様とお手紙のやりとりをさせていただく機会を頂戴し、少し緊張しつつも大変嬉しく思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は小さい頃から絵本を読むのが好きで、家にはいつもたくさんの絵本がありました。そしてマレーク様の代表作でもある「ラチとらいおん」の絵本も私の愛読書の中にあり、何回も読みかえしておりました。ラチが小さなライオンの長いしっぽをリードのように手に持っているのが、子供ながらにかわいらしく、おかしかった記憶があります。

 また、私事で恐縮ですが、現在2歳半になる息子がおりまして、絵本がたくさんある環境で育ってほしいと思い、できる限りたくさんの絵本を棚に並べてあります。その中にクマのブルンミシリーズもあり、クマが大好きな息子は「くってぃん!」(息子の言葉で日本語の「くまちゃん」を指しています。)と言ってブルンミを指さしています。特に「ブルンミのたんじょうび」が大好きで、ベッドに持っていく絵本の中の一冊です。ブルンミが泣いたり怒ったり笑ったりと表情が変わるのと、コップを持っているシーン、最後に車に乗っているシーンがお気に入りのようです。

 世代を超えて語り継がれていく絵本というのは、まさにこういうことを指すのだろうなと思います。現在、先進国は消費社会となり、どんどん新しいものが世の中に出てきて、残念なことに使い捨てが当たり前の時代となってしまいました。その中で、変わらず長い間愛されている絵本という存在は特別な気がします。そのような絵本は、きっと子供達だけではなく親達の心の中にも、何年経っても響き続けているのだと思います。そのような絵本をいつかつくることが私の目標でもあります。

 マレーク様の出身地でもあるブダペストに初めて訪れたのは、今から約15年前のことでした。そのときは観光で訪れたのですが、おもちゃの世界から飛び出してきたような美しく、可愛らしい街並みに一目惚れしてしまったことをよく覚えております。それから何年かして、ブダペストで子供達にワークショップをさせていただき、ハンガリーの読者と知り合う機会もいただきました。ハンガリーの方達はとても優しく温かいですね。実は、既に3回もブダペストでワークショップを開催しておりまして、毎回また戻ってきたい!という気持ちになります。子供達もとても純粋で、はにかんだ笑顔が印象的でした。

 ワークショップなどで子供達と触れ合うことがあると、私の方がたくさんのことを教えられます。そして、自分も絵本作家として初心に戻らないと、という思いになります。子供達の無限の想像力と純粋さ、まっすぐさには敵いません。そんな子供達の心に届くような絵本をつくるには、まだまだ学ばないといけないことがきっとたくさんあるんだと思います。マレーク様はたくさんの名作を世に生み出されてきて、世界中の子供達に愛されていますが、このような名作は一体どうやって生まれたのでしょうか?また、国立人形劇場のスタッフとして働かれていたという経歴を拝読したのですが、その時の経験もやはり作品づくりに生かされているのでしょうか?

 ハンガリーでもそろそろ春の気配が漂い始めた頃でしょうか。こちらイタリアでも桜が咲き始め、真冬のコートなしでも外に出ることができる日が増えてきました。新型コロナウイルスが終息する気配はなかなか見えませんが、このような状況が1日も早く解消されることを切に願っております。

 最後になりましたが、マレーク様、ご家族の皆様ともどもお体を大事になさってどうかお元気でお過ごしください。

 

敬具

令和3年3月10日

刀根里衣

 

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